13日。キモチ、つたわる?




夕飯の買い物をしようと、近所のスーパーに足を踏み入れた佐助は、聴き慣れた店内放送に、これまた聴き慣れた声がするのに気付いて苦笑した。佐助が耳が良い、というのもあるかもしれないが、基本的には彼の声が大きいのだ。
「旦那の声だー…またなんかお菓子でも買い込んでんのかな…」
はあ、と思わず溜息をつく。甘味好きの幸村の為に、家にはちゃんと菓子類が常備されているのだが、彼は「今日はコアラのマー●とパイ●実の気分でござった!」とか言って学校帰りに勝手に買い物をして来るのだ。
予想通り、菓子類の陳列棚の前に、ひと房だけ長い尻尾のような後ろ髪を垂らした彼の後姿を見つけた。が、声を掛けずに、すぐに棚の陰に戻る。
何故なら。
(えーと……ふたりして…何やってんの…??)
彼と、彼の好敵手でもある伊達政宗とが居たのが、赤とピンクのハートがにぎにぎしく飾られた、バレンタイン用商品の前だったから。
しかも、佐助の耳に飛び込んできたのは、聞き捨てならないことばだった。
「政宗殿政宗殿!!昨今は逆チョコなる風潮がござって、」
(旦那が逆チョコぉ???)
バレンタインといえば、実はかなりの好青年で女子の人気も高い幸村にとっては大好きなチョコレートを山と貰える好機であって(いつもなら恋愛沙汰に関しては『破廉恥』のひとことで片付けてしまいガードが固いのに、菓子が絡むとそれは二の次らしい)、それ以上ではなかったのだが、今年はどうやら違うらしい。
言われた政宗も、面白そうに軽く口笛を吹いた。―――――ちなみに彼も毎年山のように貰う。しかし全部を幸村に押し付けて、持ち帰ったことはないらしい(毎年大喜びで受け取って帰ってくる幸村談)。
「昨今ていうか結構前からだろうが。何だぁ?お前誰か気になるヤツでもいたのか??」
声を掛けそびれ、耳を欹てる佐助、気分はすっかりオカンである。
…いったいうちの子が誰に逆チョコなんて渡したいのかしらん。佐助の知るだけでも幸村に好意を寄せている女子の数は両手では足りぬくらいだが、すでにリストアップされた彼女たちのファイルを脳内で捲る。
一瞬きょとんと、葡萄のような目を見開いた幸村だったが、「あ」とか「うー」とか、口のなかでもごもご言ったあと、ちょっと俯いた。
「あー…逆チョコというか、感謝の気持ちというか…」
「感謝の気持ちぃ??」
何やら、いつもよりだいぶ声のトーンを落とした幸村につられて、政宗も少し声を潜めた。そのまま、額でもくっつけそうな勢いで、ぽそぽそと、彼らの会話は続く。
「その…某、佐助に、日頃世話になっている礼をと、そう考えまして」
「は…??」
聞き返す政宗と異口同音に(いや、声には出さなかったが)、佐助も驚いた。思わずぱしぱしと瞬きを繰り返す。
いつもは夜中だろうが朝だろうが甘味が足りないだの団子を作れだの悪気は無いとは言え無茶を言いまくる幸村だが、一応佐助に感謝の気持ちを持っていたと判っただけで、何やら込み上げてくるものがあった(それだけ普段の扱いが結構酷い証左ではないかとか思うけれどそこは気にしないことにして)。
「…猿に、ねぇ…いいんじゃねぇの?つかそんなのひとりで買いに来いよ、何で俺付き合ってこなきゃなんねぇんだよ」
漸くいつもの調子を取り戻した政宗がそう応えると、がばりと幸村が顔を上げる。
「付き合い、ではござらん!政宗殿、苦労している御仁といえば片倉殿でござる!」
「はあああ?何でそこで小十郎が出てくんだよ?」
「某の見るところ、片倉殿は如何考えても政宗殿に振り回されっぱなし、眉間の皺はますます深くなり、生え際は後退しかねぬ勢いにて」
「コラコラコラ、何かものすごく失礼なこと言ってねぇかテメェ、」
(あはは、…いや、言えてるけど、旦那、素直過ぎ…)
赤とピンクのハートの鏤められた棚の前で、今にも雷光投げつけそうな勢いの政宗と、全くそれに気付かない幸村を、佐助は苦笑しながら見守る。
「そこで!」
「いやだからテメェ話聴け!!」
噛み付きそうに詰め寄った政宗の眼前に、幸村は陳列棚から一枚の板チョコを取って差し出した。
「『赤いチョコなら、ハートが伝わる!』でござる!!」
「…………真田幸村…お前本っ当…影響されやすいよな…」
幸村の言ったことばは、最近テレビでよく流れる某・お口の恋人製菓会社のバレンタイン商戦のキャッチフレーズだったので、政宗(と、陳列棚の陰の佐助)は思いっきり肩を落とした。
「ささ!!共に購入いたしましょうぞ!この時期男子がチョコを買うのは勇気がいるものでござるが、板チョコならば某たちが購入したとて誰も気にせぬかと!」
そういって、満面の笑みを浮かべた幸村は、ずずずいっと政宗の目の前に、赤い包装紙の●ーナを差し出す。―――――『誰も気にせぬ』も何も、一般的に見て、いや見なくても、相当に見目麗しいこのふたりが、さっきから菓子の棚の前で、しかも幸村の大声で遣り取りをしているのだから、既に衆目を集めているのだが。
(まあ、そこに気付かないのが旦那だよねぇ…)
このちらちらと注がれる(中には明らかに注視している)複数の視線に気付かないなんて、平和というか幸せというか鈍感というか何と言うか。
「Ah〜……まあ…そういうことなら、買ってくのはいいんだけどよ、…明日土曜だから態々買いに出てくるのも面倒っちゃ面倒だし」
さて、差し出された政宗は、少し困ったように綺麗な眉を寄せた。
「…でも、それは、駄目なんだよな…」
「な…何故でござるか??」
キモチつながる、赤いチョコ、でござるぞ!?と、これまた何処で覚えてきたのか製菓会社のキャッチフレーズを口にする幸村を、ちらりと眺めてから、
「いや、大したことは無ぇんだけど、」
そう言って、政宗は棚にある茶色い包装紙の板チョコを取った。金色の箔押しが、店内の照明を弾いてきらりとひかる。
「小十郎が、ガー●は苦手みたいでさ」
「……は??」
「赤いからなぁ●ーナ。…やっぱり、『チョコレートは明●♪』だろ」
茶色は小十郎好きだしな!そんなことを言いながら、さっさとレジに向かう政宗の背を、佐助と幸村はそれぞれの場所から呆然と見送る。
(赤が嫌いって…右目の旦那…)
(片倉殿…)
自分の主を過保護すぎるくらい大切にする件の彼が、主の好敵手である幸村に向ける敵意にも似た嫉妬は、当の政宗以外には周知の事実であるが、―――――坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはこのことか、赤いいろは別にいいじゃん、●ーナに罪はないじゃん、と思わずツッコみたくなる。
そうして、それぞれに、
((オトナゲない……))
と、同じことを思って、ちいさく、溜息をついた。
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バレンタインだから現代ネタで!特に設定とかありませんが、多分筆頭が高校2年くらいじゃないかとか。幸村はいっこ下か同学年で。佐助は、うーん、筆頭と同い年かもうちょい上でもいいかなーとか思ってます。
筆頭のお世話役がこじゅなんですよ多分(何その曖昧設定w)佐助は幸村のうちの家政夫さん的な。
(20100211/ナガノ)


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