parade




南蛮かぶれの主をもつと碌なことが無い。畑から、南瓜を大量に運び込んでそう呟いた小十郎に、綱元は笑った。
そう言いながら、こんなものを用意するお前も、大概政宗さまに甘いな、と。

「と言う訳で。今年もやるからな、Halloween party」
朝議で主がそう告げると、主に負けず劣らずお祭り好きの家臣たちが盛り上がる。
溜息をつくのは小十郎くらいのものだ。
「なあなあ、今年も梵が菓子作るんだろ??」
成実が嬉しそうに言う。政宗が笑顔で頷くと、座が更に沸いた。
「でもなぁ、ホントは行列作って、練り歩いてるときに周りから貰うのが本式なんだぜ?菓子くれなきゃ悪戯してやるー、って」
「民に迷惑を掛けてまで、やらねばならぬものではございますまい」
眉間に皺を寄せた小十郎がぴしりと言うと、「・・・て、言うヤツがいるからな」と、政宗は肩を竦めた。
「何だか、ただの仮装行列になってんだよなぁ・・・」
本来彼がやりたかったこととは、若干ずれているらしい。しかし伊達家中で正しく『はろうぃん』なる行事を理解しているものはひとりもおらず、「妖怪の仮装をして城下を練り歩き、筆頭からお菓子を貰ってそのあと宴会をする」行事として認知されているのが実情だ。
「ま、いっか・・・成、お前今年は何やんの?」
「んー?あんま考えてなかったんだよなぁ・・・梵は?」
「今年はSpecialだぜ??当日を楽しみにしてなっ!」
「・・・それより今日の政務をこなしてくださいませ!!」
お祭り好きは伊達の血筋か、と悲しくなりながら、小十郎が叱咤した。

午前の政務の間に、主に茶を淹れてその部屋を訪れた小十郎は、寝っ転がって怪しげな書物をぱらぱら捲る主に、眉間の皺を深くした。
「・・・何をなさっておいでです・・・」
「お、小十郎、いいトコに来た!今、お前の衣装考えてたんだよ!!」
茶の乗った盆が、ふるふると震える。こめかみのあたりが、ぴしっ、と音を立てた気がした。
さすがに政宗も気付いて、慌てて起き上がる。
「ちょ・・・いや今まで真面目にやってたって!!そろそろお前が来るかなーと思ったから、お前の衣装考え始めただけだって!!」
ホラこっちが終わった分!!と文机に高く積まれた書簡の山の、ふたつのうち高いほうを指す。小十郎が盆をその脇に置いて、指されたものを確認してみれば、成程本当に目を通したようだ。
「・・・何でそこで確認すんだよ・・・」
拗ねた政宗に、小十郎は容赦無く、「政務に関しては、あまり信用できませんな」と言ってのけた。しかも、いちばん上だけでなく、二、三下まで確認する。
そしてそれから、漸く怒りの気配を解いた。
「失礼致しました。今までの経験から、つい、猜疑心が強くなりまして」
「酷ぇなあ・・・もうちょっと信用しろよ」
「信用とは一朝一夕では構築できるものではございませんよ、政宗さま」
つまり毎日こうだといいんですがね、と、言外に含めて見遣れば、視線の先で政宗は頬を膨らませた。
持ってきた茶を薦めると、Thanks、と受け取って、ふーふーと冷ましにかかる。その主に向かって、そういえば、と小十郎は声をかけた。
「小十郎は裏方ですので、衣装は必要ありませんが」
「Ah??そうなのか?綱元が、去年は自分が仮装してお前が裏方だったから、今年は交替するっつってたんだが」
湯呑みを手に、政宗は小首を傾げた。折角さっき消えたばかりの、眉間の皺が復活する。
(・・・やられた・・・)
去年は開催寸前まで、面倒がっていた綱元が、今年は宴会の手配やら行列の練り歩く順序やら、やけに乗り気だと思ったら、そういう裏があったか。小十郎が困ることなら、大抵のことは面白がるのが綱元だ。
そんな渋面の小十郎には気付かず、政宗は至ってご機嫌だ。
「折角だから、俺と対になるヤツを考えて、良いのを見つけたぜ!!なんてったって、お前は俺の、右目、だからなっ」
仮装などとんでもない、と思っていたが、既にやる気満々で、しかも心底楽しそうにそう言われては、断りづらい。その上、政宗と対になる仮装、と言われれば、どんなものだか興味が沸く。
「いったい何をお考えで?」
「Secretだ!」
「は??」
「秘密だ、って言ったんだよ。心配すんな、俺の目に狂いはねぇ!」
にんまり笑った主の顔を見て、何だかちょっと嫌な予感がした、小十郎だった。

果たして、その三日後。「こじゅうろー、衣装合わせしようぜ!」と呼ばれて、主の私室へ入った小十郎は、目の前の光景に、思わず開けたばかりの障子を閉めそうになった。
「・・・なんなんですか、その格好は・・・」
「コレか?Witchだよ!似合うだろ??」
頭には帯のような赤い幅広の紐、ふわりとした黒い衣装。くるくると回ると、その裾が翻って白い足がちらちら覗き、大変目の毒だ。
そして手にした箒を指して、政宗は力説する。
「だってWitchは箒で空飛べたりすんだぜ??まあ仮装しただけで飛べる訳ねぇけどさ。Coolだよな!!」
この格好はくーるなのかどうか、確かくーるというのは粋だとか格好良いとかそういう意味だったような気がしたのだが・・・深く考えても仕方がないので、小十郎は別のことを聞いてみた。
「その、ういっちとやらは、空を飛んで何をするんです??」
「ん?俺の読んだ本によると、荷物の配達するらしいぜ??忘れ物とか、菓子とか・・・あとなんだっけ??とにかく、便利屋みたいな感じだな」
「・・・いったいどんな妖怪なんですか・・・」
「よく判んねぇけど。俺一回空飛んでみてぇんだよなー。気持ちよさそうじゃねぇか」
箒を持ってうっとりする姿は、恐ろしいほど似合っている。似合っているのだが・・・
「して、この小十郎はどのような仮装をすれば宜しいので?」
こんな面妖な格好と対になれる妖怪とはいったい何なんだ。小十郎は些か不安を覚える。政宗は、にっこり笑って、何やら手渡してきた。
「Witchには家来っつーか、相棒がいてな。それがコレだ!!」
艶のある毛並みの、それ。
「・・・小十郎には・・・黒猫の耳と尾に見えるのですが」
「That's right!!さすが小十郎、よく判るな」
「それ以外に見えませんでしょう・・・しかし小十郎がこんなものを付けて、似合うとも思えませんが」
ふわふわとしたその耳が、自分の頭の上に載る様を想像して、あまりの似合わなさに知らず眉間の皺を深くしてそう言うと、政宗はにやりと笑った。
「嫌なら、交替するか?偶には主従交換してもいいぜ??」
「・・・いえ、・・・お断りいたします」
自分のういっち姿の悲惨さよりも、政宗の黒猫姿の可愛らしさを思い描いただけで、うっかり眩暈が起きそうになって、小十郎はそう、断った。

「とりっくおあとりーと!!」
多分意味など誰も判っていないながら、律儀に政宗に教わったことばを唱えつつ、仮装行列が練り歩く。
「盛況ですな」
その様子を、小高いところから満足そうに眺めている、赤いリボンの魔女姿をした政宗の脇に、黒猫の耳と尾を生やした小十郎が控える。ちなみに、魔女姿で現れた政宗に、家臣たちが一様に頬を染めていたのは言うまでもない。
「ああ。こういうの、いいだろ?いっつも城に篭ってんじゃ、お互い良く判んなくなっちまう」
そこここに、南瓜の提燈があって、夕闇の城下は幻想的な雰囲気に包まれていた。見物する民も楽しそうに笑っている。
お互いが、誰を守っているのか、誰の為に励むのか。行列を見下ろす主の横顔に、小十郎は深く、頷く。面倒だと言いながら、主が考案するお祭り騒ぎを全否定出来ない理由はそれだ(出来ればもう少し静かなものがいいとは思っているが)。
「・・・ところで、あれ、」
政宗は、手近にあった南瓜の提燈を指した。
「お前が作ったんだって?」
「去年、無いと寂しいと仰っていたでしょう」
「よく覚えてるな」
確かに去年、そんなことを言った。「Jack-o'-Lanternがねぇと、やっぱ寂しいよな」と。南蛮語も、その習慣もどちらかと言えば苦手なはずのこの男が、そんなことを覚えていて、ちゃんと準備してくれたことに政宗は驚いた。
「政宗さまの仰ったことを、この小十郎が忘れるなど有り得ぬこと」
当たり前のようにそう言われて、ちょっと照れくさくなる。
それを誤魔化すように、小十郎の頭に生えた耳をつつき、「似合ってるぜ、so cute」と言った。小十郎は不満そうだ。
「綱元と成実には爆笑されましたが」
夕方、この格好で広間に行ったら、狼男の成実と、裏方として宴会の準備をしている綱元は、腹を抱えて笑い転げ、その他の面々は見てはならぬものを見たかのように目を逸らしていた。確かに、強面の男に、この可愛らしい耳と尻尾は絶望的に似合わない。
「いいんだよ、俺が似合うっつってんだから。・・・なあ、小十郎、」
耳を撫でながら、政宗がその名を呼ぶ。はい、と返事をすると、主は少し、不満そうに口を尖らせた。
「猫なら、構えってじゃれてくるもんじゃねぇの??」
「・・・そうきましたか」
主が何故この格好を自分にさせたのか、今更ながらに何となく理解して、苦笑するしかない。それを見て、お前は猫でも堅ぇよな、と呟いた主の赤いリボンが揺れて、そのまま肩に、ふわり、と寄りかかってくる。
行列は、城下を一回りしに行ったようだ。遠くのほうで、「とりっくおあとりーと!」と言うのが聞こえる。それを聞いた政宗が、くすりと笑って、小十郎を見上げた。
「小十郎、・・・Trick or treat」
主の求めを察して、甘い笑みが零れる。
「では、菓子ではなくて、」
悪戯を。
そう耳朶に囁くと、「Good、」と、楽しげな笑い声が応えた。


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ハロウィン頑張った自分。つか無駄に長くなっちゃったな。キキ筆頭描こうかなww
(20091009/ナガノ)

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