コトノハ始末




朝議での政宗は、いつもと違った。
政宗から遠い、廊下側の下っ端が気付くくらいに。
「・・・筆頭、片倉さまと喧嘩でもしたのかな・・・」
「イヤでも、さっき片倉さまには『朝の挨拶だ!』とかなんとか言って接吻してたの見ましたよ」
「いいなあ片倉さま・・・羨ましいよな〜」
「だよなあ・・・って、そうじゃなくて。・・・じゃあ違うのか??でも何か・・・」
「うん、何か、稲妻が見える気がする・・・」
こそこそと、そんな会話が交わされる。

「あと、何かあるか?」
昨日の戦果と今日の予定を確認したところで、政宗が座を見渡して、そう聞く。誰も動かない。・・・もしかしたら、用事のある人間は居たかもしれない・・・が、今日の政宗に何か言おうという勇気のある人間が居なかった。触らぬ神に祟り無し。
「ねぇなら、これで終わる。・・・ところで、」
部屋の中を一巡した政宗の、ひとつだけの目が、一点に留まる。其処に居たのは、伊達家中でも、政宗にかなり近い人物、ふたり。
「お前らふたり、ちょっと残れ。あとのやつは解散!つーか当分この部屋に近づくな」
突然のご指名だが、ふたりは思い当たるところがあるのか、肩を竦め、互いに顔を見合わせただけ。政宗の左に控えていた小十郎も、意外そうに目を丸くした。
「・・・え?綱元さまと成実さま??」
「成実さまはさておき、綱元さまが筆頭の機嫌損ねるなんて、何やったんだ〜??」
ざわつく一同だったが、
「Hey guys、・・・俺は『解散』っつったんだけどなぁ・・・自力で出て行けねぇなら、吹き飛ばしてやってもいいぜ??」
政宗の手から、青い光が見えたような気がして、蜘蛛の子を散らすように出て行った。
「政宗さま、」
怪訝そうに見遣った小十郎にも、政宗は手をひらひらさせて、
「・・・すぐ、済む。ちょっとはずしててくれ」

「・・・梵、俺、居残りの理由がわかんねぇなぁ」
小十郎が廊下に出、障子を閉めたところで、成実は溜息をつく。
「成・・・もだけど、それよりな、」
政宗の視線は、笑顔の綱元を射抜く。そこらの人間なら萎縮してしまうほどの、視線。だが、射抜かれた彼は怯まない。
「政宗さま、成実殿がご不興を買ったのでしたら、それは守り役のこの綱元めに責があると存じます。・・・という訳で、成実殿は勘弁して貰えませんか」
「ほー、殊勝なこと言うじゃねぇか」
「いえ、単純に、ふたりで話したほうが早いかと。成実殿は話を混乱させることに関しては天才的ですので」
「・・・なんか、綱兄、ものすごく失礼なこと言ってない・・・??」
睨んでも、決して綱元は視線を逸らさない。先に視線を外したのは政宗で、ちらりと成実を見遣る。
「成、お前にはあとで個人的に言ってやる」
「何ソレ?今だって充分個人的じゃん」
不満そうにしていた成実だが、まあとりあえずこの場の政宗の怒りを綱元が引き受けてくれると(珍しく。ものすごく珍しく)言うのだから否やはない。
「じゃあ行くけどさ。・・・綱兄、あとよろしく」
にぃっ、と口の端を持ち上げて笑う綱元を見て、成実は障子を閉めながら、小さく呟く。
「・・・ご愁傷様、梵・・・」
綱元に、口で勝とうなんて、俺らじゃ無理だって・・・
そんなの判ってる筈なのにな。
「・・・しかし、今の綱兄の笑顔・・・何か、黒かったよな・・・??」

「理由、判ってんだろ?綱元」
閉められた障子の向こう側、足音が遠のいた頃、漸く政宗が口を開いた。・・・実は相対して綱元に意見を言うなど、此れまでの人生の中で数えるほどしかない。
そしてそのいずれも、勝った記憶は無い。小十郎より更に年長の彼に対しては、政宗も成実も、頭が上がらない、というのが本当のところだ。
「さて?」
綱元はあくまで穏やかに応える。
「ご不興を買うような覚えはございませんので・・・お教えいただけませんか」
「誰が若紫だよ!武田のふたりにまで余計なこと喋ってんじゃねぇ!!!」
苛立って、政宗は声を荒げる。
「余計なこと、とは。・・・発端は政宗さまの余計な行動かと存じますが」
「・・・っ!」
綱元の目が、雰囲気が、すうっと、変わる。政宗は、つい、背筋を伸ばしたくなった自分に舌打ちする。
「同盟しているとはいえ他国の人間の前で、不必要な行動だった、とは思われませんか。伊達の家中でしたら、政宗さまのご冗談が過ぎようが、それが実はほんとうの気持ちを隠すための手段であろうが、見て見ぬ振りも出来ましょう。・・・既に皆そうしておりますが。しかし他国の人間にそれを求めるのは些か酷ではございませんか」
静かに、淡々と。・・・昔から、この男はそうだった。誰の前でも。腹立たしいくらい、正しい。
「もし、綱元めの言動が、余計なことと仰られるのでしたら、僭越ながら、先ずは政宗さまの余計な行動から、正して戴きたく存じます」
「・・・余計とか言うな。俺には必要なんだよっ。・・・ったく、お前はいつも、正しくて、嫌ンなるな」
溜息をついて「降参だ」と首を竦めると、綱元はいつもの笑顔に戻る。そして思いついたように、尋ねる。
「しかし、誰からそれを?」
「真田幸村だよ。お前、アイツに小難しい説明すんなよ、源氏とか読むタマじゃねぇことくらい見て判ンだろ」
意味が判んねぇって言われたぞ、と言うと、綱元は声をたてて笑った。
「判然と言うにはさすがに憚られたので、例え話をしたつもりでしたが。・・・まさか政宗さまご本人に聞くとは・・・」
そこで、綱元は、政宗の頬が少し、紅潮しているのに気がつく。政宗は、幸村の名前を出したところで、夕べの『多分』告白を思い出していた。
(まさかアイツにそう言うコト言われるなんて思っても無かったしな・・・イヤ俺は小十郎で手一杯だからアイツの相手してる場合じゃねぇんだけどよ・・・)
「・・・藪蛇でしたか」
「はぁ??」
ぐるぐると、昨日のことを考えていた政宗に、面白そうに綱元が言う。
「目の前であのようなモノを見せ付けられると、自分の中に眠っていた感情に火がつく御仁もおられるかと。確かにあの若虎は発火点の低そうな感じでしたからねぇ」
「い・・・いや、そんなんじゃねぇよ!!大体アイツは自分で『多分』懸想しているって言っただけで!多分、だぞ、多分!!」
「成程、」
「・・・あ」
言わなくてもいいことまで、口を衝いて出てしまった。・・・綱元の前では、よくあることだ。そう言えば、綱元に対して、隠し事が成功したことも、無かった気がする。
「政宗さまは、自覚が無くて困ります。少し、ああいう艶っぽい視線は自重していただかないと」
あと、所構わず景綱にじゃれるのもお控えくださいね、と、付け足して、綱元はにっこり笑う。この笑みが曲者なんだよな、と、政宗は心のなかでひとり言ちる。
「・・・善処、してみる。悪かった」
「それでこそ我が主。聞き分け良くお育ちになりましたな」
ではこれで、と退室しかけた綱元だったが、障子を開けて、敷居の手前でふと、立止まる。
「・・・?どうした??」
「言い忘れましたが」
振り向いて、にっこり。
「政宗さまを『若紫』と言ったのは、成実殿ですけどね」
「・・・っ・・・成のヤツ〜!!!!!」
足音荒く、脇をすり抜けて成実を探しに行った主の背中を見つめて、綱元は目を細める。
「・・・ま、本当のところは、武田にバレようがなんだろうが、どうだっていいんだけどな」
彼の小さい頃から知っている綱元には、今の彼がああやって、大事に想うひとが出来たということが素直に嬉しかった。その相手が自分の異母弟であれ、そんな瑣末には拘らない。
奥座敷で、総てを諦め、総てを拒絶し、ただ息をしていただけの、小さな背中。
「伊達の家中で、貴方の幸せを望まないものなんて、おりませんよ、政宗さま」
もちろん、自分も。
それが天下統一だろうが、恋の成就であろうが。
成実の部屋の方で雷鳴が轟いたような、そして自分の名を呼ぶ情けない声がした気がして、やれやれ、と綱元はそちらに歩き出した。

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・・・こじゅ好きなのに、こじゅが出てこない話ばっかだな〜(笑
実は自分綱元好き?捏造に萌えててすみません。伊達家は皆筆頭命。竹に雀印のごますり棒標準装備な感じでお願いします。
(20091004/ナガノ)

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