いくじなし
政宗はそれほど酒に強くない。
酒に強くはないが酔っているときのふわふわとした感じが嫌いではないので酒を飲む。
そのふわふわした世界ではいつもは煩わしい小十郎の小言まで子守唄のようにひびくから不思議だ。
それが酔っているということなのだろうけど。
政宗はまた、酔っているときは小十郎がいつもよりかまってくれるのを経験上知っている。
酒には強くないので酒量の限界を突破すると途端に顔には朱が差し、呂律が回らなくなり、足元がふらつく。
その政宗を酒の席から連れ出し、転んではいけないと背負って自室まで連れ帰ってくれる。
小十郎は普段から大概自分には甘いと思うけれども、こういうときはさらに甘やかしてくれていると思う。
梵天丸のときは当たり前のように背負われていたこの背中も、何時からか酔ったときくらいしか触れることができなくなった。
本当は何時だって昔の様に触れたいし触れられたい。
だから酒のせいにして小十郎に触れる。
ふわふわした世界でゆらゆら揺られていると気持ちいい。
自室までの短い時間、この「ゆらゆら」をじっくり堪能せねばとふわふわした頭でぼんやりと考えた。
† † † † † † † †
政宗は酔っ払うと呂律が回らなくなり、動きが大変危なっかしくなる。
小十郎はそれを知っていたが、大抵彼が気付いた時、既に彼の主は酔っ払っている。
酔った彼を無事に寝かしつけるまでが酒の席と小十郎はよく心得ていた。
「こじゅうろ〜」
「もうすぐお部屋に着きますぞ、政宗さま」
いつもは相手を威圧するため意識的に低くしている声が、酔ったときは少し高めになる。
小十郎はその声が嫌いではない。
そして酔いを理由に彼を背負うことができるのも嫌いではない。
政宗の自室はもう目の前だ。
政宗を背負ったまま、小十郎は難なくふすまを開け、既に整えられた布団の上に政宗を下ろした。
「ちゃんと着替えてからお休みくださいませ」
「……ah〜、こじゅーろーがぬがせろ〜」
「……………政宗さま、もう幼子ではないのですからご自分で……」
「む〜……、ぬ・が・せ・ろ・!」
「…承知しました…」
これ以上揉めて騒ぎを起こしたくないので承諾する。
(以前酔っぱらいの政宗の機嫌を損ねて巨大な雷の塊を投げつけられたことがあった。
小十郎は間一髪かわしたものの、庭木が多大なる損害を受けてしまったことが記憶に新しい。)
政宗が梵天丸だったころから幾度となく着替えをさせてきたので、その作業自体は別段難しいものではない。
ただ、その頃と明らかに違うのは目のやり場に困るということだった。
自分の主だからという欲目というのもあるかもしれないが、その細くてしなやかな筋肉で覆われた体も、日に焼けていない肌も小十郎を落ち着かない気分にさせる。
政宗のはだけた肩に見とれてすこしぼんやりしていたのかもしれない。
「…こじゅーろ?」
主が小十郎を下から覗き込んでいる。
小十郎の反応がないのをみると酷く悪戯っぽい光がその隻眼に宿った。
ぼんやりしていた小十郎は政宗が軽く肩を突いた拍子に均衡を失いぐらりと傾いた。
重力に引かれるまま小十郎の背中は畳にぶつかり、その上に肩をはだけさせたままの彼の主が跨った。
跨ったせいで裾がめくれ、太腿までが露わになる。
主は(酔っているせいもあるのだろうが)上機嫌でのたまった。
「こじゅーろー、あんまりぼんやりしてるとおそっちまうぞー」
「……御戯れを……」
「おたわむれ…じゃなかったらどうする…?」
瞬間言葉に詰まった小十郎を政宗は面白そうに見やった。
「…Sorry、Jokeだ…許せ。…ちょっと…酔ってた…」
ぽつりともれた一言には既に酒精の欠片は認めることができなかった。
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筆頭に男らしく押し倒してもらうはずが…何だか違うものに…。
(20091001/ミズキ)
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