コトノハちくり
疲れる戦だった。いろんな意味で。
伊達と同盟を結んで、まさかこういう疲れる戦をすることになろうとは・・・
俺様にも予想出来ない事はまだまだあるんだわ〜、と、佐助は頭を掻きながら、伊達屋敷の中にあてがわれた自室へ向かう(忍に部屋なんかあてがうのは武田家だけだと思ってたら案外そうでもないらしい)。
奥州の双竜が仲良しさんなのは知ってたけど、まさかこういう『仲良し』加減だったとは。
知ってたら同盟結ぶのに反対してたかも、と本気で思う。
しかも。
驚くべきことに、竜の旦那の片恋らしい。
正直なところ、意外、としか言い様が無いが。
我侭で尊大で自信過剰な人物、と思っていた。
見た目、そのまま、だけど。
そうしてそれはそれほど外れてはいなかったのだが、こと、身内のこととなると、それは大分趣きを異にするようだ。
身内、というか、・・・特に、・・・
「猿飛」
「うわぁあっ、はい!」
考え事をしながら歩いていたとは言え、一応忍隊の長なのに、目の前の人物は気配を消すのが巧いのか、声を掛けられるまで気づけなくて、我ながら情けない声を出してしまった。
目の前の人物、・・・今正に佐助がつらつらと考えていた奥州の双竜の片割れ、片倉小十郎は、そんな佐助を意外そうに見つめる。
「何だ、真田だけじゃなくて今日はお前も変だな」
低く言って笑う。いつも眉間に皺を寄せて怒号を発している人物が、ふと穏やかな表情をすると、それだけで男前度が上がる。
いや、実際どっちかって言うと、いやいやどっちかって言わなくても男前の部類に入る訳なんだけど、これまでそういう尺度でこのヒトのこと見てなかったからなぁ・・・
「どうしたんだ?そんなに付き合い長い訳でもねぇが、今日のお前ら何だか変だぞ」
厳しい視線に慣れているから、そういう、本当に心配そうな顔で覗き込まれると、ちょっと困るんですけど・・・
・・・はぁ。それにしても。
「ウチの旦那のことは勘弁してやってよ、初心だから、双竜の公開お惚気の刺激が強すぎたの」
本人はあてがわれた部屋に早々に引き揚げて、というか逃げ込んでしまった。明日あたり熱が出るかもよ、と言うと、小十郎は笑った。
「政宗さまのご冗談は、確かに多少行き過ぎることもあるから、な」
アレを冗談で片付けちゃいますか。
「・・・えーと・・・・・・朴念仁で根性無しの源氏かぁ・・・」
綱元のことばが蘇る。鬼庭綱元というのは目の前の人物の異母兄ということだったが、成程小十郎のことをよく判っている。言い得て妙だ。俺様ならそれに『天然』の称号も贈ります。
「あぁ??」
何だソレは、と、ちょっと眉間に皺が寄る。
「いやこっちの話。で、右目の旦那は、その『ご冗談』を諫めたりとかはしないの?」
軽く聞くと、小十郎は、怒りではなく困惑の感情で、眉間の皺を深くした。
「あー、・・・政宗さまはここ何年か、何というか、ああいうご冗談がお好きなようでな・・・」
あくまで、冗談、なのね、俺様感服します・・・しかも『ここ何年か』って、こんなこと何年もやってるんですか・・・
「抱きついたり、接吻したり、そういうことをすると、安心なさるというか。幼いころに人嫌いだった反動かもしれんな」
・・・ん??んんんんん??????はい???俺様の耳がおかしくなりましたか???
・・・いや、聞かないほうがいいのか?聞き間違いってコトで流しておくべきか??いやいやでも、ここで聞いておかないと、後で悶々としそうだ、双竜ツーショットを見るだけで。
それならここははっきりさせておいたほうが身の為かも。
「右目の旦那、」
「何だ」
「あのさあ、・・・竜の旦那が、抱きついたり?」
「ああ、ああいうのは日常茶飯事だな。お前の言う『公開惚気』とやらはそういうことだろう」
「・・・接吻したり?」
「さすがにそれはあまり人前ではされないな、そういえば」
「そういう『ご冗談』で安心する、と・・・」
「そういうことだ」
・・・・・・・・・竜の旦那、ちょっと、いや、かなり、同情します・・・
余計なお世話とは思いながら、言わずには居られない。
ちくりと。
「右目の旦那は、自分だったら、抱きついたり接吻したりって、冗談でできんの??」
「俺は無理だな」
即答。
あああ。
小さい頃に教わったでしょ、自分に置き換えて相手のキモチを考えろ、とかさぁ。
「竜の旦那は、出来るひと、なんだ?付き合い長いから判るんでしょ??」
「・・・」
さすがに、伊達軍随一の知恵者もことばが出てこないか。・・・ていうか、知恵者なら気付けよ!!と思い切りつっこみたい。
・・・あれ、でも、そう言えば・・・
「朴念仁、はさておき、・・・根性無し、って、・・・あれ??」
今更だが、綱元のことばを反芻してみる。根性無し、って、それは、・・・
目の前の人物は、眉間の皺を利き手でなぞりながら、瞑目している。
「・・・政宗さまの、あれは、冗談、だ」
低い、抑えた声音。でもそれは、怒りを含んでいるものでは決して無くて。
「それって、さ」
「それだけだ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」
とにかく、お前らが大事無いならいいんだ、と言い置いて、くるりと踵を返し、遠ざかって行く。
それってさ、
「右目の旦那が、そう思いたいってこと?」
その背中に聞こえない程度の声で、佐助は呟き、難儀な主従だねぇ・・・と溜息をついた。
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またしても佐助視点でごめんなさい。でも彼は書き易くていいですね。常識人が他にいないもので。あと双竜に突っ込んでくれそうな公式キャラは慶ちゃんくらいですか。
小十郎がただの天然うましかだと可哀想なので救済してみました。いや、自分こじゅ好きですから!
(20090929/ナガノ)
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